呼吸音の聴診

聴診器の周波数特性から、聴取部位、副雑音の音響学的定義と鑑別、頸部聴診法まで。呼吸音を厳密に評価するための詳解。

このページの位置づけ

観察項目としての「呼吸」では、 回数・深さ・リズム・見た目・耳で聞こえる音まで、聴診器を使わずに分かることを扱いました。 このページはその先、聴診器を胸に当てて、肺の中で起きていることを聴き分ける領域を扱います。

内容は意図的に踏み込んでいます。副雑音を「ゼーゼー」「ゴロゴロ」で済ませず、 音響学的にどう定義され、どの病態で生じ、どう鑑別するのかまで書きました。 看護職員やセラピストと同じ言葉で話すために、そして この技術がなぜ習得に時間がかかるのかを理解するために、一度通して読んでみてください。

はじめに ─ 介護職員と聴診について

聴診器を胸に当てて音を聴く行為そのものは、医行為には当たらないと一般に解されています。 しかし聴こえた音から病名や重症度を判断することは、介護職員の役割ではありません

介護職員に期待されるのは、「いつもと違う音がする」と気づき、それを事実として記録し、医療職に渡すことです。 このページの知識は、その気づきの解像度を上げ、報告の言葉を正確にするためのものです。 実施の可否と範囲は、必ず所属施設の方針と看護職員の指示に従ってください。

CHAPTER 01

1. 聴診器という装置を理解する

聴診器は「音を拾う道具」ではなく、特定の周波数帯を選んで通すフィルタです。 この性質を知らないまま使うと、聴くべき音を自分で捨ててしまいます。

膜型(ダイアフラム)とベル型の違い

膜型 diaphragm

硬い樹脂の膜が張られた面。膜が低い周波数を減衰させるため、 相対的に高い音がよく聞こえます

呼吸音の聴診は、原則こちらを使います。 肺胞呼吸音、捻髪音、笛音といった高めの音が主対象だからです。 皮膚にしっかり密着させて押しつけるのがコツです。

ベル型 bell

膜のない、お椀状の面。皮膚そのものが膜の役割をするため、 低い音を拾いやすくなります。

主に心音(III音・IV音、心雑音)や、いびき音のような低調な音に使います。 軽く触れる程度に当てるのが原則で、 強く押しつけると皮膚が張って膜型と同じ特性になってしまいます。

なお近年は、押しつける強さで膜型/ベル型が切り替わる一面型(シングルヘッド)も広く使われています。 軽く当てれば低音域、強く押せば高音域。手元の聴診器がどちらの方式か、一度確認しておいてください。

聴こえを左右する、装置以外の要素

  • イヤーピースの向き。外耳道は前方に向かって伸びています。 イヤーピースはやや前傾させて装着します。逆向きだと音量が大きく落ちます。
  • チューブの長さと接触。長いほど高音域が減衰します。 またチューブが衣服や手に触れると、その擦過音が肺の副雑音そっくりに聴こえます。
  • 衣服の上から聴かない。布の擦れる音は、断続性ラ音と区別がつきません。 必ず素肌に当てます。難しい場合は薄い肌着1枚までとし、その旨を記録に残します。
  • チェストピースを温める。冷たいまま当てると、驚いて呼吸が乱れ、 筋緊張による雑音も増えます。手のひらで数秒温めてから当てます。
  • 体毛。胸毛の多い方では、毛が膜をこすって捻髪音に酷似した音が出ます。 皮膚を軽く濡らすか、当てる位置をずらして再確認します。

CHAPTER 02

2. 聴取部位と手順

聴診でもっとも多い失敗は、聴き方ではなく「聴いていない場所がある」ことです。 高齢者施設で問題になりやすい下葉や背側は、前胸部からはほとんど聴こえません。

原則は「左右対称に、上から下へ、ジグザグに」

同じ高さの左右を必ず聴き比べます。 呼吸音は個人差が大きいため、「この音は異常か」を単独で判断するのは困難です。 しかし同じ人の左右差であれば、経験が浅くても検出できます。 右で聴いたら次は同じ高さの左、そこから一段下がってまた右、というジグザグに進みます。

前胸部

  • ・鎖骨の下(上葉)
  • ・第2〜第4肋間の胸骨寄り(上葉・右中葉)
  • ・乳頭の高さの外側(右中葉・左舌区)

前面から聴けるのは主に上葉と中葉です。下葉は前面からはほとんど評価できません。

背部

  • ・肩甲骨の上(上葉)
  • ・肩甲骨の間(上葉・下葉上部)
  • ・肩甲骨下角より下(下葉

臥床がちな高齢者で異常が出るのは、圧倒的に背側下部です。 ここを省略すると、肺炎も無気肺も胸水も見逃します。

時間がないときの最小構成

全点を聴く時間が取れない日もあります。省略するなら、優先順位を決めておきます。

右上左上 右下左下

背部の4点(左右 × 上下)。これだけでも、下葉の左右差は拾えます。 前胸部だけを聴いて「異常なし」と記録するより、はるかに意味があります。

高齢者ならではの工夫

  • 座位が取れない方は、側臥位にして上になった側の背部を聴く。左右で体位を変えて2回行う
  • 円背が強い方は肩甲骨の位置が下がっているため、肋骨を触って高さを確認する
  • 車椅子上では、前傾してもらい背部の隙間を作る。介助者に支えてもらう
  • 指示が入りにくい方は、深呼吸を求めず、自然な呼吸を長めに聴く

聴くときの条件

  • 1か所につき、最低でも1呼吸周期(吸って吐いて)を通して聴く。吸気だけで離すと、呼気にしか出ない音を落とします
  • 可能なら口を開けてやや深めに呼吸してもらう。鼻呼吸だと鼻腔の雑音が乗ります
  • 深呼吸を続けさせすぎない。高齢者では過換気やめまいを起こすことがあります。数呼吸ごとに休みます
  • テレビ・空調・話し声を止める。副雑音は小さな音です。環境音がある場所では、そもそも聴こえません

CHAPTER 03

3. 正常呼吸音の分類

異常を聴き分けるには、まず正常を知る必要があります。 正常呼吸音は、聴取部位によって性質が変わります。 「その場所で聴こえるはずの音か」という判断が、異常検出の土台になります。

名称 聴取部位 吸気:呼気 音の高さ・強さ 性質
気管呼吸音
tracheal
頸部の気管上 1 : 1 程度
(呼気がやや長い)
高い・非常に大きい 粗く硬い、管を通る風のような音。吸気と呼気の間に明確な休止がある
気管支呼吸音
bronchial
胸骨上部、肩甲骨間の上部 1 : 2
(呼気が長い)
やや高い・大きい 気管呼吸音に近いが、やや柔らかい
気管支肺胞呼吸音
bronchovesicular
第2〜3肋間の胸骨寄り、肩甲骨間 1 : 1 中程度 上の2つと下の肺胞呼吸音の中間的な性質
肺胞呼吸音
vesicular
肺野の大部分(末梢) 3 : 1
(吸気が長い)
低い・小さい そよ風のような柔らかい音。呼気は最初のほうしか聴こえない

周波数という視点

正常な肺胞呼吸音のエネルギーは、大部分がおおむね 100〜200 Hz に集中し、 末梢へ行くほど高い成分が肺組織に吸収されて減っていきます。 一方、気管呼吸音は1000 Hz を超える成分まで含む広帯域の音です。

この「肺は高音を吸収する」という性質が、聴診の原理そのものです。 肺が硬くなったり水が溜まったりすると、高い音が吸収されずに伝わってくるため、 末梢の肺野で気管支呼吸音のような硬い音が聴こえます。これを 気管支呼吸音化と呼び、肺炎による硬化(コンソリデーション)を示す重要な所見です。

「雑音がない」ことと「正常」は違う

副雑音がなくても異常なことがあります。むしろ高齢者施設では、こちらのほうが多いかもしれません。

呼吸音の減弱・消失

その部位に空気が入っていない、あるいは音の伝達が遮られている状態。 無気肺、胸水、気胸、高度の肺気腫などで生じます。 左右を聴き比べて初めて分かる所見で、片側だけ聴いていると気づけません。

呼気の延長

呼気に時間がかかっている状態。気道が狭くなっていることを示し、 喘息や COPD で見られます。笛音が鳴っていなくても、 呼気が吸気より明らかに長ければ異常です。

CHAPTER 04

4. 副雑音の分類と音響学的定義

副雑音(adventitious sounds)は、正常呼吸音に重なって聴こえる異常音の総称です。 大きく断続性ラ音(ぶつぶつと途切れる)と連続性ラ音(一定時間続く)に分かれ、 これにラ音以外の音が加わります。

分類 日本語名 / 英語名 聴取時期 音響的な目安 音の印象 発生機序
断続性ラ音
discontinuous
捻髪音
fine crackles
吸気後半 2CD ≈ 5 ms
IDW ≈ 0.7 ms
高調(約650 Hz)
髪の毛を耳元でこすり合わせる音。「チリチリ」「パリパリ」 虚脱していた末梢気道が、吸気の終盤に一気に開放されるときの破裂音
水泡音
coarse crackles
吸気初期〜呼気 2CD ≈ 10 ms
IDW ≈ 1.5 ms
低調(約350 Hz)
ストローで水をぶくぶく吹く音。「ブツブツ」「ゴロゴロ」 比較的太い気道内の分泌物を空気が通過し、泡がはじけるときの音
連続性ラ音
continuous
笛音
wheezes
主に呼気
(重症では吸気にも)
持続 ≧ 100 ms
優位周波数 ≧ 400 Hz
笛のような高い音。「ヒューヒュー」「ピーピー」 細い気道が狭窄し、通過する気流で気道壁が振動する
いびき音
rhonchi
主に呼気 持続 ≧ 100 ms
優位周波数 ≦ 200 Hz
いびきのような低い音。「グーグー」「ボーボー」 太い気道の狭窄。分泌物によることが多く、咳で消えることがある
その他 胸膜摩擦音
pleural friction rub
吸気・呼気の両方
(同じ場所で往復)
低調・断続的 革靴がきしむ音。「ギューギュー」 炎症で粗くなった胸膜どうしがこすれ合う
ストライダー
stridor
主に吸気 高調・連続性 甲高く耳障りな音。聴診器なしでも聴こえる 喉頭・気管など上気道の閉塞。緊急事態
スクウォーク
squawk
吸気 短い連続性音 「キュッ」という短い鳴き声のような音 捻髪音に短い笛音が続く。過敏性肺炎や間質性肺疾患で聴かれる

2CD と IDW という指標について

断続性ラ音を客観的に分類するために、波形から測る2つの指標が使われます。

  • IDW(initial deflection width、初期振幅幅):波形の最初のひと振れの幅
  • 2CD(two-cycle duration、2周期時間):最初の2周期分の長さ

捻髪音はおおむね 2CD 5 ms / IDW 0.7 ms、 水泡音はおおむね 2CD 10 ms / IDW 1.5 ms が目安とされます。 ここで押さえたいのは数値そのものではなく、両者の違いが「1000分の数秒」という単位で決まるという事実です。 人間の耳が、この差をその場で、しかも安定して聴き分けなければならない ── それが呼吸音聴診という技術の実像です。

※ 数値は ATS(米国胸部学会)および ERS の CORSA(Computerized Respiratory Sound Analysis)プロジェクトで 用いられてきた代表的な参考値です。文献により幅があります。

ストライダーだけは、性質が違う

他の副雑音が「記録して報告する」対象であるのに対し、 ストライダーは即座に人を呼ぶ対象です。 吸気時の甲高い音は上気道が塞がりかけていることを意味し、完全閉塞まで時間がありません。 食事中に突然これが起これば、窒息を第一に考えます。 聴診器を当てて確かめている場合ではなく、その場で応援を呼んでください。

CHAPTER 05

5. 音から病態を絞り込む

副雑音の種類だけでなく、「呼吸周期のいつ鳴るか」「体位で変わるか」「咳で消えるか」が 鑑別の手がかりになります。ここは医療職の領域ですが、 観察するときにこの視点があると、報告の質が変わります。

捻髪音(fine crackles)が聴こえたら

タイミング・分布示唆される病態
吸気後期・背部下肺野・体位を変えても消えない間質性肺炎、肺線維症
吸気後期・両側下肺野・臥位で増強心不全による肺うっ血
吸気後期・片側限局肺炎の初期、その部位の含気低下
数呼吸で消える・深呼吸で消失臥床による一過性の無気肺(病的でないことが多い)

「深呼吸を数回してもらったら消えたか」を確認して記録すると、医療職にとって非常に有用な情報になります。

水泡音(coarse crackles)が聴こえたら

比較的太い気道に分泌物があることを示します。介護施設でもっとも頻繁に遭遇する副雑音です。

  • 咳や体位ドレナージで消える/移動するなら、痰の貯留が主体。喀出の援助が有効な場面
  • 咳をしても同じ場所で鳴り続けるなら、肺炎や気管支拡張症などを考える段階
  • 食後に増える・右側優位なら、誤嚥を強く疑う。解剖学的に右主気管支のほうが太く傾斜が緩いため

笛音(wheezes)

両側性・多音性なら、喘息や COPD の増悪など、 広くびまん性に気道が狭くなっている状態。

片側性・単音性で、いつも同じ場所なら、 その気道が局所的に塞がれている可能性(腫瘍、異物)を考えます。 また心不全でも笛音は鳴り、「心臓喘息」と呼ばれます。 笛音=喘息、ではありません。

いびき音(rhonchi)

太い気道の分泌物によることが多く、咳払いひとつで消えることがあります。 消えたかどうかまで確認して記録すると、痰の貯留か構造的な狭窄かの区別に役立ちます。 また、聴診器なしでも聞こえる「ゴロゴロ」の正体はこれであることが多く、 誤嚥のリスクが高い状態を示します。

もっとも危険なのは「静かな胸」

喘息や COPD の増悪では、狭窄が進むほど笛音は大きくなります。 ところが本当に重篤になると、気流そのものが失われて音が消えます。 これを silent chest(サイレントチェスト)と呼びます。 「さっきまでヒューヒュー言っていたのに、静かになった」は改善ではなく、最悪の徴候です。 意識レベル、呼吸数、努力呼吸とあわせて評価してください。

CHAPTER 06

6. 頸部聴診法 ─ 嚥下を音で評価する

胸部の聴診が「肺で何が起きているか」を診るのに対し、 頸部聴診法(cervical auscultation, CA)「飲み込みがうまくいっているか」を診る手技です。 誤嚥が最大のリスクである高齢者施設では、こちらのほうが出番が多いかもしれません。

聴取部位と手順

  1. 1 部位:輪状軟骨(のどぼとけの少し下)のすぐ下、気管の外側。 頸動脈を圧迫しないよう、正中からわずかに外した位置に、軽く当てます。
  2. 2 嚥下の前に呼吸音を聴く。この時点で「ゴロゴロ」があれば、 すでに咽頭に唾液や残留物がある状態です。
  3. 3 嚥下音を聴く。正常では「ゴクッ」という短くはっきりした音が おおむね0.5秒程度で完結します。
  4. 4 嚥下直後の呼気音を聴く。ここが最も重要です。 清明な呼気音が戻れば問題は少なく、湿った音や泡立つ音がすれば咽頭に残留があります。
所見示唆されること
嚥下音が長い・弱い・複数回に分かれる嚥下する力の低下、food が一度で送り込めていない
嚥下音の前後に「ムセ」や咳顕性誤嚥
嚥下後の呼気が湿った音・泡立つ音咽頭残留。次の呼吸で誤嚥する危険がある
嚥下後にゴロゴロした呼吸音が続く喉頭侵入・誤嚥の可能性。むせがなくても起こりうる
嚥下音そのものがほとんど聴こえない嚥下反射が起きていない可能性

頸部聴診法の限界を、正しく知っておく

頸部聴診法は、ベッドサイドで特別な機器なしに行える点が大きな利点です。 一方で、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)の代わりにはなりません。 音だけで誤嚥の有無を確定することはできず、 判定は検者の経験に依存し、検者間で判断が一致しにくいことが繰り返し指摘されています。

したがって頸部聴診法は、「精密検査が必要な人を拾い上げるためのスクリーニング」として位置づけるのが適切です。 介護職員が行う場合は、「誤嚥している/していない」と結論づけるのではなく、 「嚥下後に湿った音が続いた」という事実を記録し、言語聴覚士や看護職員につなぐところまでが役割になります。

CHAPTER 07

7. 聴診の落とし穴

ここまで読んで「できそうだ」と感じた方に、あえて難しさのほうを書きます。 聴診は、思っているほど再現性の高い検査ではありません。

副雑音そっくりの「にせ雑音」

体毛の擦過音は捻髪音に、衣類の擦れは水泡音に、 チューブが指に触れる音は断続性ラ音に酷似します。 筋の震え(シバリング)や腸雑音も紛れ込みます。 「異常音を聴いた」の何割かは、実は自分が作った音です。

聴取者間で判断が揃わない

同じ音を聴いても、捻髪音と呼ぶ人と水泡音と呼ぶ人が分かれます。 医師・看護師の間でも一致率は決して高くないことが知られており、 用語の統一が繰り返し課題として挙げられてきました。

記録が主観に依存する

「痰がらみ+」と書いても、その音の大きさや位置は残りません。 前回と比べて悪化したのか改善したのかを、記録から判断できないのが実情です。 経時的な比較こそ、変化を捉えるうえで最も価値があるにもかかわらず、です。

聴く側の条件も揺れる

副雑音の主要な成分は数百 Hz 以上の高音域にあります。 加齢に伴う聴力低下は高音域から始まるため、 聴き手の年齢によって聴こえる範囲が変わります。 夜勤明けの疲労や、環境音の大きさでも変わります。

そして、時間がない

技術的な難しさに加えて、現実的な制約があります。 1人あたり背部4点を丁寧に聴けば、体位を整える時間を含めて数分はかかります。 入所者が50名いる特養で、全員を毎日というわけにはいきません。

さらに、高齢者施設の種類・特徴・入居条件で触れたとおり、 特別養護老人ホームには夜間の看護職員配置義務がありません。 つまり夜間、この判断を担うのは介護職員です。

結果として何が起きるか。「気になったときに、気づいた人が聴く」という運用になります。 それ自体は間違っていませんが、 気になる前の段階の変化や、担当者が替わったときの比較は、どうしても抜け落ちます。

CHAPTER 08

8. 技術を、機械で補うという考え方

ここまで見てきた聴診の難しさは、大きく3つに整理できます。

① 習熟に時間がかかる

1000分の数秒の差を、その場で聴き分ける必要がある

② 人によって結果が変わる

聴取者間の一致率が高くなく、聴力や疲労にも左右される

③ 記録が主観的で比較できない

「痰がらみ+」では、前回との差が分からない

この3つは、いずれも「人間の耳と記憶に依存していること」から生じています。 逆に言えば、音を波形として記録し、機械が周波数や持続時間を測るなら、 1000分の数秒は正確に測れますし、担当者が替わっても同じ基準で測れますし、前回の波形と並べて比較できます

これは、聴診という技術を否定する話ではありません。 音を聴くべき人を見つけるところまでを機械が担い、聴いて判断するのは人が行う。 そういう分担であれば、限られた人員でも、変化を拾える範囲を広げられます。

AiTone のアプローチ

スマートフォンを首に10秒

AiTone は、専用機器を使わず、iPhone を頸部に当てて10秒録音するだけで、 AI が頸部呼吸音を解析し、呼吸音の特定パターンを検知するアセスメント補助ツールです。 このページで扱った周波数と持続時間による副雑音の分類を、 機械が同じ基準で毎回測ることを目指しています。

習熟に依存しない

経験年数にかかわらず、同じ手順で計測できます

担当者が替わっても同じ基準

誰が測っても、判定の物差しが変わりません

記録が残り、比較できる

前回との違いを、印象ではなくデータで見られます

位置づけについて

AiTone はアセスメントを補助するツールであり、医療機器ではありません。 診断を行うものでも、聴診や医師の診察に置き換わるものでもありません。 気になる結果が出たときに、看護職員や医師につなぐ ── その入り口を増やすための道具です。

REFERENCES

9. このページで参考にしている考え方

呼吸音の用語は、国際的に標準化が進められてきた

副雑音の呼称は歴史的に混乱があり、米国胸部学会(ATS)による用語整理や、 欧州呼吸器学会(ERS)の CORSA プロジェクトによる コンピュータ呼吸音解析のための用語・技術の標準化が行われてきました。 断続性ラ音を 2CD・IDW で分類する考え方も、この流れのなかで整理されたものです。

参照情報源:American Thoracic Society によるラ音の用語整理/ERS CORSA(Computerized Respiratory Sound Analysis)の標準化文書

聴診は有用だが、検者間の一致率には限界がある

呼吸音聴診は簡便で侵襲がなく、ベッドサイドで繰り返せる優れた手法です。 一方で、同一の音に対する判定が検者間で必ずしも一致しないことが知られており、 記録の再現性という点に構造的な弱さがあります。 コンピュータによる呼吸音解析は、この点を補う目的で研究が続けられてきました。

参照情報源:呼吸音の記録・解析・臨床的意義に関する欧州呼吸器学会の総説

頸部聴診法はスクリーニングであり、確定診断ではない

頸部聴診法は、機器を要さずベッドサイドで嚥下を評価できる手法として広く用いられています。 ただし嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE)に代わるものではなく、 精査を要する対象者を拾い上げるスクリーニングとして位置づけられます。

参照情報源:日本摂食嚥下リハビリテーション学会が示す嚥下スクリーニングの考え方

介護職員の役割は、判断ではなく観察と共有にある

聴診器を当てて音を聴く行為自体は医行為に当たらないと一般に解されていますが、 そこから病名や重症度を判断することは介護職員の役割ではありません。 聴こえた音を事実として記録し、看護職員・医師へつなぐことが期待される役割です。

参照情報源:公益社団法人 日本介護福祉士会「倫理綱領」「倫理基準(行動規範)」/厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」

参照している情報源

  • ・American Thoracic Society によるラ音(crackles / wheezes)の用語整理
  • ・European Respiratory Society「CORSA(Computerized Respiratory Sound Analysis)」標準化文書
  • ・Crackles: recording, analysis and clinical significance(European Respiratory Journal)
    https://publications.ersnet.org/content/erj/8/12/2139
  • ・Lung Sounds(StatPearls, NCBI Bookshelf)
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537253/
  • ・一般社団法人 日本呼吸器学会
    https://www.jrs.or.jp/
  • ・厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日 医政発第0726005号)
  • ・公益社団法人 日本介護福祉士会「倫理綱領」「倫理基準(行動規範)」

本ページは介護現場での学習・実務の参考として作成しています。 医学的な診断・治療の判断を目的としたものではありません。 記載した音響パラメータ(2CD・IDW・周波数・持続時間)は文献上の代表的な参考値であり、 測定条件や文献によって幅があります。 聴診の実施可否と範囲は、必ず所属施設の方針および看護職員・医師の指示に従ってください。

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